Ryukalice

フルリモートに対する否定意見について

2019-09-23

背景

Twitter でのリモートワークの嫌われっぷりは凄まじいものがある。リモートワーカーに親でも殺されたのだろうか。未経験でフルリモートを目指す初学者に対しては、特に強い言葉や汚い言葉で否定されている。問題は、否定意見を強い言葉で発する人々の主張は、実情に合わないことが多すぎることだ。リモートワークに挑戦どころか実情調査すらしたことない人から発せられる言葉でリモートワークを目指す人が踊らされるのは悲しいので、フルリモートの否定意見について回答していく。

筆者の労働環境

私は web 系エンジニアになってから半年でフルリモート勤務になり、それ以来フリーランスの時代も、会社員の今も、請けている副業も、全てフルリモートだ。(リモート勤務を手に入れるまでの方法や経緯については この記事 に私の詳細なキャリアパスが書いてあるので参照してほしい。)

また、妻はソフトウェアエンジニアになって以来ずっとフルリモート勤務だ(私が隣にいるのでフルリモートのデメリットは薄いと思うが)。そしてタイムリーなことに、つい最近未経験のソフトウェアエンジニアをフルリモートフルフレックスの条件で採用したばかりだ。

私は単純に引きこもりであることと、通勤圏内に IT 企業がほとんど存在していないど田舎に家を建てた身なので、フルリモート勤務が当たり前の環境であるし、フルリモート勤務が上手くいく方法について常に考えてきた。それだけに、実践どころか上手くいく方法を気にしたこともない人々からの妄想的な否定意見によってフルリモート勤務の評価が下がることは我慢ならないのだ。

フルリモートに対する否定意見への回答

前提条件

まず未経験フルリモートに対する否定意見の多くは、自分で何も考えられず困っても人に尋ねることができないような人を採用した前提で語られる。 そんな奴はフルリモート前提で採用するな。 主体性のある人材を採用しよう。困った時にちゃんと質問してくれて、ちゃんと言葉が使える人材を採用しよう。それができない人材であればオフィス勤務だろうと教育には苦労するだろう。採用にミスった前提でフルリモートを叩くのはおかしな話だ。

逆に言えば、初学者がフルリモートを目指すなら、まず主体的な人材を目指すべきだ。仕事を円滑に進める上で、タスクが空きそうになったら自分で報告できるとか、問題に躓いたら納期感を持って適切なタイミングで質問できるとか、そういった行動を自分から取ることのできる人でなければフルリモートで採用されるのは難しい。少なくとも弊社ではまずそこを見る。また、技術力を鍛える前に、コミュニケーションが高速に取れるとか、思っていることを言葉で正確かつ簡潔に説明できるとか、そういった能力を鍛えた方が良い。先日採用した未経験者は、普段から Twitter の自学報告で躓いた問題や解決した方法等を正しく説明できていたこと、チャットコミュニケーションの内容やスピードに関してストレスを感じなかったことが、採用の大きな要因となった。

つまりこれから回答する内容は、タスクが空いていたら報告もせずに待ち続けるとか、質問すべきタイミングで質問せずに何時間も消費するとか、そもそもまともなコミュニケーションが取れないとか、そういった類の人材は面接で弾いた前提で考えてほしい。

フルリモートは365日24時間勤務だ

フルリモートに対する否定意見で、一番多い主張だ。これは全くの誤りである。リモートワークとは、勤務時間内をオフィス以外の場所で働く取り組みなだけであって、労働基準法は当然適用される。リモートワークになった途端に労働基準法が適用されないと考えている会社は、単純にブラックなだけだ。違法前提の意見は無視して良い。そんな企業に入るべきではない。

フルリモートは自走が必要だ

自走とは、自分で自分の仕事を判断して、指示無しで仕事を進めることだとする。未経験者は自走できないから、フルリモートは無理だという意見がある。これも全くの誤りである。リモートワークでは、指示の手段が口頭からオンラインになるだけだ。むしろログや言った言わないの観点から言えば望ましいことだ。フルリモート = 放置ではない。リモートワークとは、オフィス以外の場所からコミュニケーションを取りながら働くことであって、一人で働くことではない。

フルリモートは質問できない

これは環境の問題だ。質問できる人、質問できる雰囲気、質問できる場所、の3つは常に揃っている必要がある。質問できる人と雰囲気に関しては、教育そのものを業務に割り当てられている教育担当者を割り当てよう。特に、その教育担当がフルタイムのプロジェクトに入っていて常に忙殺しているのでは意味がない。ハッキリと教育が業務として割り当てられている人に担当させるのだ。

一番良くないのは「新人が困っていたら空いている人が助けてあげてね」とか、「新人さんは困ったら周りの人に相談してね」とか、そういった状態で放置することだ。Twitter 界隈の初学者エンジニアだけでも、これが原因で数人脱落している。この問題に関してはオフィス内であろうが同様だ。

また、リモートにおいては質問場所はオープンな方が良い。教育担当とのダイレクトメッセージで1on1で技術的質問をさせるよりも、皆が見られる場所に質問を投げてもらった方が良い。他の人が答えられるかもしれないし、教育担当の説明の補足が受けられるかもしれないし、教育担当が返事できていないことやしばらく質問が出ていないことがチームのメンバーにも伝わるので、slack にオープンな技術的質問の専用チャンネルを作る等すると良い。

こういった取り組みすら行わずに、未経験者を教育するなんてオフィス内でも難しいだろう。教育の仕組み作りの検討すら行っていない人に限って、「リモートだと質問できないから初学者は無理」といった意見を強い言葉で行うのだ(俺調べ)。オフィス内かリモートかに関わらず、質問できる環境すら整えずに勝手に未経験者が育つのは幻想だ。フィクションだ。目を覚ませ。

フルリモートはコミュニケーションが取れない

世の中にはテレビ会議という便利なものがあるのだ。顔を合わせて音声で通話することができる。基本的にテキストである必要のないコミュニケーションはテレビ会議で行うと良い。重要なのは、即時開始できることだ。ミーティング用の URL や部屋は常に用意しておいて、1操作や2操作程度で即時会議室に入れるようにしておくと良い。弊社では、Chatwork の右上に常時表示されている概要欄に常に解放しているオンライン会議室を用意していて「ちょっと今ミーティングいいですか?」「okです」でワンクリックでオンライン会議を開始できるようにしている。

ちなみに、リモートワークに関する著書も出版しているソニックガーデンさんは、確か remoty なる自社製ソフトウェアで全員常にテレビ会議を繋ぎっぱなしにしていた気がする(全てうろ覚えだが)。新人がサボっているかわからないとか、顔を見ないと詰まっているかわからないとか、表情が見えないとメンタルが不安とか、離席を管理したいとか、そういった意見は結構目にするので、そういった人は常にテレビ会議に繋いでおくというのも1つの教育戦略かもしれない。

フルリモートは詰まったら解決できない

環境構築で詰まったとか、git でよくわからないエラーで先に進まなくなったとか、テキストやテレビ会議では解決できず、マシンが教育担当の手元にないと詰むイメージを持っている人は多いだろう。1つの方法は、新人のマシンに ssh で入れるようにしておいて、問題が起きたらオンライン上でマシンを操作して解決してあげることだ。

しかし、なんと昨今は Visual Studio Code の Live Share という機能でそんなことすらせずに済む。詳しくは 昔の記事 を参照してほしい。さらっと説明すると、ソースコードやターミナルを共同で操作することができ(Google スプレッドシート等を想像してほしい)、ローカルのアプリケーションサーバー(rails server 等)もプロキシしてくれる。つまり、オンラインミーティングの画面共有等をせずとも、ソースコードもマシンの状態もローカルサーバーも共有できるわけだ(凄くない?)。もはやペアプロや問題解決においては、オフィス内で隣の席にいたとしても Live Share を使った方が業務効率が良いかもしれない。私は妻の問題を解決するとき、隣にいても Live Share で繋いでいる。余談だが、dvorak ユーザーにとっては人のマシンを直接触らなくても編集作業ができるのは最高である。

どこもフルリモートなんてやってない

remote-in-japan というリポジトリがあって、ここで国内でリモートワークを行なっている企業の一覧があるので参考になるかもしれない(私がお世話になった企業さんも含まれている)。ちなみに勿論うちはやっているし、今まで SES 先を含めて5社ほど経由しているが、全てフルリモートだ。やっていない人や探していない人からは見えていないだけで、リモートワークを推進し始めている企業は増加傾向にあると思う。オフィス周辺に来られる人限定で人材を探すよりも、世界中から人材を探す方が良い人材を見つけやすいので、1つの採用戦略にもなっているのだ。

その他

「フルリモートだとサボる -> ちゃんと労務管理しよう」「フルリモートだと雑談が減る -> 環境を作ろう」等といった話や、実際にリモートワークのデメリットとなる要素については 昔の記事 に書いたので本記事では省略する。

終わりに

リモートワークにはリモートワークの戦略があることが分かって頂けただろうか。リモートワークを否定している人々の多くは、リモートワークを取り入れている会社が、どのような取り組みに力を入れて円滑に業務や教育を行っているかの実情を知らずに想像で発言しているのだ。リモートワークを目指す方々においては、是非そういった知らない人の意見に惑わされずに、実際にやっている人の意見や、実際にやってみて失敗した人の意見を参考にするようにしてほしい。働き方の希望や家庭内の制限によってリモートワークを目指す人々が、少しでも活躍しやすい社会になることを祈る。